女のためいき
森 進一の集団就職の話
デビュー曲
森進一は、鹿児島を出発した集団就職専用の蒸気機関車に揺られていた。鹿児島市立長田中学校を卒業したての十五歳。大阪までの二十四時間、長いすは硬かった。
中卒で就職組の同級生たちも、それぞれ大阪や東京を目指した。シゲト、シンジ、タケオ、ヒサオ、かっちゃん、チャボ。下関から前年の夏に転入し、半年だけ長田中に通った森だけは「森内」と、まだ名字で呼ばれていた。
それでも、まだ見ぬ世界への不安ゆえに、連帯感は強まった。
「列車の中では、かあちゃんが作った弁当をひたすらかき込んで、寂しさを吹き飛ばした」。シゲトこと、反田(たんだ)茂人(57)は思い起こす。
その年、九州から「金の卵」と呼ばれた中卒者四万四千人余が、関東や関西に向かった。
中卒で就職組の同級生たちも、それぞれ大阪や東京を目指した。シゲト、シンジ、タケオ、ヒサオ、かっちゃん、チャボ。下関から前年の夏に転入し、半年だけ長田中に通った森だけは「森内」と、まだ名字で呼ばれていた。
それでも、まだ見ぬ世界への不安ゆえに、連帯感は強まった。
「列車の中では、かあちゃんが作った弁当をひたすらかき込んで、寂しさを吹き飛ばした」。シゲトこと、反田(たんだ)茂人(57)は思い起こす。
その年、九州から「金の卵」と呼ばれた中卒者四万四千人余が、関東や関西に向かった。
二十一歳。
プロ歌手として三年目に入っていた森に、就職列車の記憶が突然、よみがえる。レコーディングが始まるや、歌の冒頭で鼻の奥がツンとして不覚にも泣いた。
〈泣くな妹よ 妹よ泣くな〉で始まる「人生の並木路」はこう続いた。
〈泣けばおさない二人して 故郷をすてたかいがない〉
離郷後、妹が二千円送ってきたことがあった。「家族のためにまだ何もできていないとか、仕事を転々としたとか、突然そんな感情になってしまった。鼻がぐじゅぐじゅで歌えなかった」
「日をあらためてやらせてください」の森の言葉に、作曲した古賀政男は「歌は生き物だからこれでいいんだ」とそのままOKを出した。
「人生の並木路」が初めて世に送られたのは、戦前の一九三七(昭和十二)年。時を超えて、「まだ子どもだった」という森の心を揺さぶり、森によるリメークが企画されたのだった。古賀メロディーだけを集めたアルバム「影を慕いて」に、森のおえつはそのまま刻み込まれた。
森の涙の奥には、大阪に到着後の体験が横たわっていた。
「少しでも多く鹿児島に仕送りしたい」。森もシゲトも、すし屋、居酒屋、料亭と転職を続けた。住み込みで働き、月給は五千円。大卒初任給の三分の一だった。手元にはほとんど残らなかった。
休みが合えば、二人は大阪ミナミの心斎橋で待ち合わせた。
「調理場の隅で残りもんの腐ったような飯ばっかいじゃ」「しごきか、いじめか分からん、もう働けん」。愚痴ばかりが出た。訪ねてきた中学の就職担当の先生にも訴えた。何も変わらなかった。
森は、鹿児島市に戻り、「エンパイヤ」というキャバレーでバンドボーイもした。師匠となる人気バンド「東京パンチョス」のチャーリー石黒に見いだされるまで、あえいだ。「自分がどう身を処すべきか。全部、あの時代に肌で感じ取った」
〈やがてかがやくあけぼのに わが世の春はきっと来る〉
「人生の並木路」の一節は、自分の意思で定職につかないフリーターが二百万人を超えた今では、新鮮にさえ聞こえる。
「当時はみんなが家族を思って働いてきた。今の時代は自分のため。個人個人ばらばらになった」。そう言う森だが、決して批判はしない。「冷たくみえるけれど、それはまた一つの進歩。それを乗り越えて温かいものをつかまないとだめだと思う」
「少しでも多く鹿児島に仕送りしたい」。森もシゲトも、すし屋、居酒屋、料亭と転職を続けた。住み込みで働き、月給は五千円。大卒初任給の三分の一だった。手元にはほとんど残らなかった。
休みが合えば、二人は大阪ミナミの心斎橋で待ち合わせた。
「調理場の隅で残りもんの腐ったような飯ばっかいじゃ」「しごきか、いじめか分からん、もう働けん」。愚痴ばかりが出た。訪ねてきた中学の就職担当の先生にも訴えた。何も変わらなかった。
森は、鹿児島市に戻り、「エンパイヤ」というキャバレーでバンドボーイもした。師匠となる人気バンド「東京パンチョス」のチャーリー石黒に見いだされるまで、あえいだ。「自分がどう身を処すべきか。全部、あの時代に肌で感じ取った」
〈やがてかがやくあけぼのに わが世の春はきっと来る〉
「人生の並木路」の一節は、自分の意思で定職につかないフリーターが二百万人を超えた今では、新鮮にさえ聞こえる。
「当時はみんなが家族を思って働いてきた。今の時代は自分のため。個人個人ばらばらになった」。そう言う森だが、決して批判はしない。「冷たくみえるけれど、それはまた一つの進歩。それを乗り越えて温かいものをつかまないとだめだと思う」
集団就職には人それぞれドラマがありネタに困ることはないのです。
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